薬剤師のための傷病手当金申請マニュアル

更新日:令和2年5月10日

薬剤師のみなさん、もし病気やケガで働けなくなり給料がもらえなくなってしまったら「傷病手当金」をもらえることをご存知ですか?

 

薬剤師や医療従事者でも意外と知らない人が多い「傷病手当金」ですが、うつ病での休職でも対象となります。しかも、給料の3分の2の金額を最大で1年6ヵ月の間受け取ることができます。
民間の保険では、このような手厚い保証の保険はありません。

 

ストレスの多い医療業界において、うつ病になってしまう薬剤師や医療従事者の方も多くいることを考えれば、是非知っておきたい制度の一つです。
「傷病手当金」とは病気やケガによる休業中の生活を保障するために設けられた制度ですので、お金や生活の心配をせず安心して療養することができます。

 

 

私がうつ病で仕事を休もうか悩んでいた時、医師も会社も傷病手当について誰も教えてはくれませんでした。傷病手当を知っていたらもっと早く休むことができたかもしれません。


 

こちらのページでは、薬剤師にも知っておいてもらいたい「傷病手当金」の申請方法について詳しく説明していきます。

 

 

傷病手当金とは

病気やケガで仕事を休んだ時は、傷病手当金が受けられます!

 

傷病手当金は、業務外のケガ(負傷)・病気による療養のために会社を休み、給料を受けられないときの生活保障として支給されます。

 

支給されるための条件は4つ!

傷病手当金が支給されるのは、次の4つの条件すべて満たす必要があります。

  1. 業務外での病気やケガの療養のための休業であること
  2. 仕事に就くことができない状態であること
  3. 4日以上仕事を休んでいること
  4. 休んだ期間の給与の支払いがないこと

 

 

業務外での病気やケガの療養のための休業であること

業務上や通勤中の事故によるものは、傷病手当金ではなく労災保険の給付対象となります。
あくまで、業務外で起こったケガや病気が傷病手当金の支給対象です。
保険診療による療養に限らず、自費で診療を受けた場合でも、仕事に就くことができないことの証明がある時は支給対象となります。
自宅療養でも支給対象となるため、入院が必要なわけではありません。
また、美容整形などの病気と見なされないものもは支給対象外です。
うつ病などの精神疾患は支給対象です。

 

仕事に就くことができない状態であること

傷病手当金は休業中の生活を保障するための制度のため、休む必要がないケガや病気は対象とはなりません。
仕事に就くことができない状態かどうかの判定は、療養担当者である医師の証明が必要です。

 

4日以上仕事を休んでいること

仕事を連続して3日間休んだ後の、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。
そのため、まず3日間連続して休む必要があり、休みが連続していなければ傷病手当金は受給できません。
この3日間は傷病手当金受給のための「待期」期間であり、「待期3日間」が成立する必要があります。

出典:全国健康保険協会(協会けんぽ)

待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。

年末年始の正月休みや、ゴールデンウィークの連休中でも待期は完成しますので、連休明けから仕事に就けない場合には出勤日初日から傷病手当受給は可能です。
また、待期完成後に出勤をしても問題ありません。待期完成には3日連続の休みが必要ですが、傷病手当受給期間中は休みが連続していなくても大丈夫です。
うつ病など、症状が不安定の人の場合には出勤と休みを繰り返す場合もあり得ます。

 

・公休日(土日・祝日等)、有給日についても待期期間に含めることができます!
・待期期間が完成したら、何日か出勤してからの支給も可能です!

 

 

休んだ期間の給与の支払いがないこと

病気やケガで休んでいる期間について生活保障を行う制度のため、有給休暇取得などで給与が支払われている場合は当然、傷病手当金は支給されません。
ただし、給与の支払いがあっても、満額ではなく傷病手当金の額よりも少ない場合には、その差額分が支給されます。

 

傷病手当金は給与の3分の2が支給される制度ですので、給料が病気やケガによって減額されていても、会社から3分の2以上の給料の支払いがある場合には、傷病手当金の支給はないということです。
仮に、給料が通常の半分ほどに減額されていた場合には、給料の3分の2との差額が支払われます。

 

支給される期間は最長1年6ヵ月

傷病手当金が支給される期間は、支給開始日(待期完成後の4日目以降)から最長1年6ヵ月です。
有給休暇消化などで給与の支払いがある場合や、一時的に仕事に復帰した期間がある場合は、その期間の支給はされませんので、1年6カ月分支給されるのではなく、期間として支給開始日から1年6カ月ということです。
なお、支給開始後1年6ヵ月を超えた場合は、仕事に就くことができない場合であっても、傷病手当金は打ち切られてしまいます。

出典:全国健康保険協会(協会けんぽ)

傷病手当金を打ち切られても、ハローワークで失業給付が受けれます!
1年6ヵ月以降も働けず退職している場合には、その後雇用保険の基本手当(失業給付)を受給することができます。
療養が長引きそうな場合には、必ず事前にハローワークで受給期間延長の申請を行いましょう。

 

支給される傷病手当金の額は?

支給される傷病手当金の額は、今までの月給のおよそ3分の2となります。
次の計算式で算出できます。

 

【1日当たりの金額 (計算式)】

 

標準報酬月額とは、健康保険の保険料を計算するための基礎となる1月あたりの報酬の額で、1ヵ月の報酬額を50等級に区分したものです。
実際の月給とは異なるので注意が必要です。標準報酬には、基本給のほか、各種手当、借り上げ社宅などの現物支給や賞与についても対象となります。
標準報酬月額は、都道府県によっても若干異なりますので、詳しくはこちら(協会けんぽサイト)をご覧ください。
計算式を見て分かるように30日で割って1日分の支給額を計算するため、1カ月単位で休んだ場合には給付額は月によって変動します。
31日ある月は給付額が多く、2月の場合には28日分の給付となり給付額が少なくなります。

 

退職した後も傷病手当金はもらえる?

傷病手当金の支給期間中に会社を退職した場合でも、就業不能な状態が続いていれば退職後も引き続き給付を受けることができます!
退職日に傷病手当金を受けていなくても、受けれる状態(支給条件を満たしている)であれば退職後の受給は可能です。
ただし、退職日も休んでいることが条件ですので、退職日が出勤扱いにならないように注意しましょう。
うつ病などで長期の療養が必要な場合などは、退職に至るケースも多いので、退職後も傷病手当金の給付が続くことで安心して治療に専念することができます。

ただし、退職の日までに、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あることが条件となります。
また、退職後の給付継続中に一度でも仕事に就くことができる状態になった場合は、その時点で傷病手当金の支給は終了となります。

 

 

お世話になった職場への挨拶のためにと、退職日に出勤してしまうと傷病手当金の継続給付ができません!
最終日に出勤しないように注意しましょう!


 

傷病手当金の手続き・申請方法

傷病手当金の受給条件を満たしている場合には、以下の手順で申請が可能です。

 

医師への確認

傷病手当金の条件として、医師による仕事に就くことができない状態であることの証明が必要です。
そのため、病院に通院・入院していることが前提とはなります。
仮に、病院で通院治療を行っていたとしても、医師から仕事に就くことができない状態であると認められなければなりません。
自分の現在の状況や体調面を医師に説明し、仕事を休むように診断された場合には、傷病手当金支給申請書の4ページ(療養担当者記入用)への記入をお願いしましょう。
医師や病院側からは傷病手当金の制度について詳しく教えてくれません。自分から、傷病手当金を受給したい旨を伝えるようにしましょう。

 

 

医師から仕事に就けない状態であると診断される必要があります。
仕事を休むように言われても、傷病手当金の制度について医師が教えてくれるとは限りません。制度利用の希望を伝えましょう。


 

会社への報告

傷病手当金支給が支給されるには、4日以上の長期の休みが必要です。
そのため、会社にはすでに病気やケガで休む旨の連絡はしているかと思われますが、事業主記入用の書類を会社に記載してもらうために、傷病手当金の制度を利用したい旨を伝えましょう!

 

会社や上司は『傷病手当金』という制度があることを教えてくれません。薬局開設者が制度自体を知らないことも良くあります。必ず、自分から傷病手当金受給の希望を伝えましょう!


 

傷病手当金支給申請書を手に入れる

傷病手当金の申請をするには、健康保険傷病手当金支給申請書が必要です。保険者(協会けんぽや保険組合)から、傷病手当金支給申請書を取り寄せましょう。
会社が取り寄せてくれる場合もあります、その場合には会社からもらった申請書を利用しましょう。
協会けんぽの傷病手当金支給申請書は、下記の協会けんぽのホームページからもダウンロード可能です。

 

申請書類は4枚1組となっています。

〇 被保険者記入用(自分で記入する):2枚
〇 事業主記入用(会社が記入する)  :1枚
〇 療養担当者記入用(医師が記入する):1枚

※ 上記以外の書類の提出を求められるケースもあります。例えば、休職理由がケガの場合は「負傷原因届」、ケガの原因が第三者による場合は「第三者行為による傷病届」が必要となります。

 

傷病手当金支給申請書を記入する

申請書は全部で4ページあります。
1、2ページ目が申請する本人が記入するページです。3ページ目(会社記入用)、4ページ目(医師記入用)以外の記入方法について確認します。

 

1ページ目の記載のポイント

1ページ目『申請者情報』の記載になります。
傷病手当金を支給する本人の情報と、傷病手当金の振り込まれる銀行等の口座情報を記載します。
傷病手当金申請時に既に退職していると、保険証を会社に返してしまっていて手元に保険証がなく被保険者証の記号番号が分からないという場合もあります。

 

そのような場合には、1ページ目ページ下のマイナンバー記載欄にマイナンバーを記載すれば大丈夫です。
ただし、本人確認書類の添付が必要になりますので注意しましょう。

 

 

2ページ目の記載のポイント

2ページ目『申請内容』の記載になります。
「傷病名」や「初診日」に関しては、医師の記載内容(4ページ目)と同様に記入します。
「療養のため休んだ期間(申請期間)」については、待期期間も含めて実際に休んだ期間を記載します。実際には、最初の3日間の待期期間については傷病手当金の支給対象外ですが、待期期間の初日から記載します。

 

 

「報酬額」については、会社の記載内容(3ページ目)を参考に記入してください。

 

 

過去に労災保険から休業補償給付を受けていて、休業補償給付と同一の病気やけがのために労務不能となった場合には、傷病手当金は支給されません。
また、業務外の理由による病気やケガのために労務不能となった場合でも、別の原因で労災保険から休業補償給付を受けている期間中は、傷病手当金は支給されません。
ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

 

申請書の提出先

傷病手当金支給申請書の4ページすべての記載が終わったら、書類を提出します。
申請書の提出先は、健康保険被保険者証(健康保険証)に記載されている管轄の協会けんぽ支部になります。
協会けんぽでは、窓口に直接持参するか、郵送でも構いません。

 

 

退職後に他県に引っ越した場合、任意継続被保険者資格取得申出書に関しては、引越し先の住所を管轄する協会けんぽ支部に提出をしますが、傷病手当金支給申請書については、今まで通り引越し前の支部への提出となります。

 

 

ポイントを押さえれば申請自体は意外と簡単です!
もしわからないことがあれば、加入している保険者(協会けんぽ等)の窓口に電話で相談すれば、丁寧に教えてくれますよ。


 

まとめ

傷病手当金は、病気やケガで仕事を休み会社から十分な給料の支払いがない場合の生活保障として月給の約3分の2最大1年6ヵ月の間支給される制度です。
うつ病などの精神疾患でも対象になるような、手厚い就業不能保険は民間の保険にはありません。
会社や病院、医師なども傷病手当金について教えてくれませんので、必ず自ら医師や会社に傷病手当金受給の希望を伝えるようにしましょう!
退職日に出勤をしてしまわぬように注意が必要です。

 

 

 

うつ病になってしまう前に、転職をして労働環境を見直す

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